2010-01-01から1年間の記事一覧

アンリ=ジョルジュ・クルーゾー『密告』

原題:Le Corbeau 制作国:フランス 公開年:1943年 監督/脚本:アンリ=ジョルジュ・クルーゾー 撮影:ニコラ・エイエ キャスト:ピエール・フレネー(ジェルマン)、ピエール・ラルケ(ヴォルゼ)、ミシェリーヌ・フランセ(ローラ) 舞台はサン・ロバン…

モーリス・ルブラン『続813』新潮文庫

Maurice Leblanc, Les Trois Crimes d'Arsène Lupin (1910). 前編に続いて一気に読んでしまった。この作品には、読者を驚かせる仕掛けがこれでもかというばかりに詰まっている。とんでもない人物が刑務所のルパンを訪ねてくるところとか、殺人鬼L・Mの正体が…

モーリス・ルブラン『813』新潮文庫

Maurice Leblanc, La Double Vie d'Arsène Lupin (1910). ハヤカワ文庫の新訳版を読み出してからは、寝る前にルパンを読むのが習慣になっている。疲れていると本を読んでいても内容が頭に入ってこないときがあるが、ルパンのシリーズはとにかく先が気になる…

和田英次郎『怪盗ルパンの時代―ベル・エポックを謳歌した伊達男』早川書房

ルパンが活躍するのは19世紀末から20世紀初頭にかけてのベル・エポックと呼ばれる時代。パリが世界の文化的な中心地として飛躍的な発展を遂げた時代だ。ルパンは小説の中で、パリに生きる典型的な都会人として出てくる。ルパン・シリーズを読むことは、ベル…

モーリス・ルブラン『水晶の栓』ハヤカワ文庫

Maurice Leblanc, Le Bouchon de cristal (1912). 代議士ドーブレックの別荘へ侵入したルパン一味だったが、この盗みを計画した部下のジルベールとヴォシュレーが警察に捕まってしまう。ふたりの本当の狙いは、ドーブレックが持っている水晶の栓だった。逃走…

モーリス・ルブラン『奇岩城』ハヤカワ文庫

Maurice Leblanc, L'Aiguille creuse (1909). ルパン・シリーズ最初の長篇で、高校三年生のイジドール・ボートルレとアルセーヌ・ルパンの対決が語られる。ボートルレは、ジェーヴル伯爵の屋敷に盗賊団が侵入した事件をアルセーヌ・ルパンのしわざと見抜き、…

モーリス・ルブラン『カリオストロ伯爵夫人』ハヤカワ文庫

Maurice Leblanc, La Comtesse de Cagliostro (1924). アルセーヌ・ルパンが、ラウール・ダンドレジーと名乗っていた二十歳の頃の冒険譚。ルパン最初の冒険であり、怪盗紳士アルセーヌ・ルパンの誕生秘話でもある。この作品が書かれたのは1924年なので、ルパ…

モーリス・ルブラン『怪盗紳士ルパン』ハヤカワ文庫

Maurice Leblanc, Arsène Lupin Gentleman Cambrioleur (1907). ルパンというと、小学生の頃、ポプラ社から出ていた児童向けのシリーズを学校の図書館でよく読んでいた。ルパンのシリーズは、同じポプラ社の少年探偵団のシリーズとともに、私のお気に入りだ…

アナトール・フランス『神々は渇く』岩波文庫

Anatole France, Les Dieux ont soif (1912). フランス革命期の恐怖政治時代を舞台にした歴史小説。主人公のエヴァリスト・ガムランは美貌の若い画家で、年老いた母と一緒に暮らしている。熱烈な共和主義者で愛国者の彼は、ロシュモール夫人の運動によって革…

チェーホフ『かもめ』岩波文庫

ねえ、コースチャ、今では私、分かるの、理解できたの―舞台に立とうが物を書こうが同じこと、私たちの仕事で大事なのは、名声だとか栄光だとか、私が夢見ていたものではなく、耐えることができるかどうかなの。 今年のはじめに出た『かもめ』の新訳版を読ん…

プリーストリー『夜の来訪者』岩波文庫

John Boynston Priestley, An Inspector Calls (1945). とにかく、ぼくたちはまっとうな市民で、犯罪者じゃないんですからね。 岩波文庫版の解説によると、作者のジョン・ボイントン・プリーストリー(1894〜1984)は、イギリスのジャーナリスト・小説家・劇…

尾崎翠『第七官界彷徨』河出文庫

よほど遠い過去のこと、秋から冬にかけての短い期間を、私は、変な家庭の一員としてすごした。そしてそのあいだに私はひとつの恋をしたようである。 川村湊『日本の異端文学』でその名を初めて知って以来、尾崎翠はどことなく気になる作家だった。今回、河出…

ゴンクウル兄弟『ジェルミニィ・ラセルトゥウ』岩波文庫

表題は『ジェルミニィ・ラセルトゥウ』だが、本の中では「ヂェルミニィ」となっている。この表記の仕方に時代を感じる。岩波文庫版は昭和25年の刊行。今は『ジェルミニー・ラセルトゥ』の表記が一般的だ。「ゴンクウル兄弟」も、今は「ゴンクール兄弟」と書…

ゾラ『テレーズ・ラカン』講談社文庫

パク・チャヌク『渇き』の下敷きとなったゾラの『テレーズ・ラカン』を読み直した。 アルジェリアで、フランス人の軍人と現地の女との間に生まれたテレーズは、幼くして叔母のラカン夫人に引き取られ、夫人のひとり息子で病弱なカミーユと一緒に育てられる。…

グリンメルスハウゼン『阿呆物語』岩波文庫

今春の岩波文庫リクエスト復刊で、一番楽しみにしていた『阿呆物語』を読了。全六巻で構成されており、岩波文庫版で上中下三巻にわたる長編だが、最後まで飽きることなく読めた。 三十年戦争(1618〜1648)の真っ只中のドイツを舞台とした小説なので、兵士の…

長山靖生『人はなぜ歴史を偽造するのか』光文社知恵の森文庫

この本の前半部分では、偽史に取り憑かれてしまった人たちのエピソードが紹介されているが、これが実に面白い。いくつか紹介してみる。 江戸初期、偽系図作りを商売としていた沢田源内。彼は架空の系図をでっち上げるだけでは飽き足らず、歴史にも手を出し、…

岡田暁生『音楽の聴き方―聴く型と趣味を語る言葉』中公新書

自由闊達に語り合えれば合えるほど、やはり音楽は楽しい。聴く喜びはかなりの程度で、語り合える喜びに比例する。音楽の楽しみは聴くことだけではない。「聴くこと」と「語り合うこと」とが一体になってこそ音楽の喜びは生まれるのだ。 われわれは、音楽は感…

国枝史郎『神州纐纈城』河出文庫

川村湊の『日本の異端文学』(集英社新書)によれば、国枝史郎(1887〜1943)は、忘却と復活を繰り返してきた作家だという。国枝史郎は、1943年の死後、しばらくの間忘れられた存在になっていたが、1968年に桃源社から『神州纐纈城』が出版され、1976年には…

コンラッド『密偵』岩波文庫

コンラッド(1857〜1924)の代表作のひとつで、1894年に起きたグリニッジ天文台爆破事件に着想を得た一種のテロ小説。しかし、『密偵』というタイトルから、スパイが縦横無尽に活躍する作品を期待すると裏切られる。副題に「ある単純な物語」とあるように、…

パク・チャヌク『渇き』

原題:Bak-Jwi 監督:パク・チャヌク 製作国:2009年韓国・アメリカ合作映画 キャスト:ソン・ガンホ(サンヒョン)、キム・オクビン(テジュ)、シン・ハギュン(ガンウ)、キム・ヘスク(ガンウの母) 痛い場面が苦手な私にとって、パク・チャヌク監督の『…

山城新伍『現代・河原乞食考』解放出版社

『おこりんぼ さびしんぼ』が面白かったので、山城新伍の本をもう一冊読んでみた。 在日コリアンの部落と被差別部落に囲まれた、京都西陣の小さな医院の息子として生まれた山城新伍は、子供の頃、差別的な言葉を使ったり、そのような態度をとるたびに、父親…

ローラと新居、その夫と産經新聞

前のエントリーで触れた産經新聞の記事はあまりにひどい。少し長くなるが、全文引用してみる。 http://sankei.jp.msn.com/life/trend/100304/trd1003040019000-n1.htm 「ローラ、もしもの時に男性に頼らなくても生きていけるように仕事を持っておきなさい」 …

ストリンドベリ『痴人の告白』(1888)

(『講談社 世界文学全集24』所収) 1877年、ストリンドベリは、元ウランゲル男爵夫人であるシリ・フォン・エッセンと結婚する。一時は作家であることをほとんど断念していたストリンドベリであるが、この結婚によって生活も落ち着き、再び創作活動へと向か…

アナトール・フランス『舞姫タイス』白水Uブックス

【あらすじ】 アンティノエの修道院長パフニュスは、放蕩生活を送っていた若い頃に心惹かれた舞姫タイスを改宗させようと、アレクサンドリアへと向かう。パフニュスは、タイスに存在によって多くの人が堕落させられていると考えたのだ。幼い頃、家にいた黒人…

松本仁一『アフリカ・レポート 壊れる国、生きる人々』岩波新書

『インビクタス』を観てアフリカの現在が気になり、この本を手に取ってみた。 私が子供の頃、テレビはアフリカの飢餓についてたびたび伝えていたように思う。栄養失調で腹部だけが飛び出た子供の映像はかなりショッキングだった。子供心にも、日本のような国…

クリント・イーストウッド『インビクタス 負けざる者たち』

英題:INVICTUS 製作年:2009年 製作国:アメリカ 日本公開:2010年2月5日 監督・製作:クリント・イーストウッド 原作:ジョン・カーリン キャスト: モーガン・フリーマン(ネルソン・マンデラ) マット・デイモン(フランソワ・ピナール) 公式サイトはこ…

『倫敦から来た男』

英題:THE MAN FROM LONDON 製作年:2007年 製作国:ハンガリー/ドイツ/フランス 日本公開:2009年12月12日 監督・脚本:タル・ベーラ キャスト: ミロスラヴ・クロボット(マロワン) ティルダ・スウィントン(マロワンの妻) ボーク・エリカ(マロワンの娘…

ストリンドベリ『夢の劇』(1901)

(『講談社 世界文学全集58』所収) 人生これ反復…あの教師を見ろ…昨日は博士となり月桂冠を授かり礼砲を受けてパルナッソスに至り、王さまの抱擁まで受けた…それで今日はまた学校で同じ質問の繰り返し、二掛ける二はいくつ?死ぬまでそれを続けるだろう…さ…

ストリンドベリ『強者』『母の愛』『火あそび』

(『講談社 世界文学全集58』所収) 『強者』(1888〜89) 一幕劇。登場人物はX夫人とY嬢の二人だが、X夫人が一方的にしゃべり続け、Y嬢はそれを黙って聞くだけという一種のモノローグ劇になっている。 【あらすじ】 Y嬢はX夫人の夫のかつての愛人。ひとりの…

ストリンドベリ『令嬢ジュリー』(1888)

(『講談社 世界文学全集58』所収) 登場人物は三人。伯爵令嬢のジュリー(25歳)と下男のジャン(三十歳)、そしてジャンの許嫁で料理女のクリスティン(35歳)。 【あらすじ】 夏至祭の夜、ジュリーは下男のジャンをダンスに誘う。ジャンが人目を気にして…