2010-01-01から1年間の記事一覧

最近読んだ本と観た映画

ここ最近の猛暑ですっかりバテてしまい、本や映画の感想を書く作業もすっかり滞ってしまった。とりあえず、ここ一週間くらいで読んだ本と観た映画のリストだけでも。 【読書】 ジム・トンプスン『内なる殺人者』河出文庫 フィリップ・K・ディック『高い城の…

ロビン・マックネス『オラドゥール―大虐殺の謎』小学館文庫

1944年6月10日、フランス中南部の小さな村オラドゥールで、ナチス親衛隊(SS)による大規模な虐殺事件が起こった。村人642人が殺され、生き残ったのはわずか数人。男は納屋に、女子供は教会にそれぞれ押し込められ、機銃の一斉射撃を浴び、火を点けられ、手…

マルセル・パニョル『鉄仮面の秘密』評論社

ボアゴベ『鉄仮面』、久生十蘭『眞説・鐵仮面』を読んだら、史実としての鉄仮面はどうだったのかが気になり、本書を読んでみた。著者のマルセル・パニョル(1895〜1974)はフランスの小説家、劇作家、映画作家である。鉄仮面の謎に関しては、ハリー・トンプ…

三島由紀夫『わが友ヒットラー』

久しぶりの観劇。下北沢のザ・スズナリで、三島由紀夫の『わが友ヒットラー』を観る。演出は旧東独出身のペーター・ゲスナー。なかなか上演されない作品らしく、私も舞台で観るのは初めてだった。 作品そのものはずいぶん昔に読んだことがある。登場人物は男…

久生十蘭『久生十蘭ジュラネスク―珠玉傑作集』河出文庫

久生十蘭の再評価の気運が高まっているのだろうか。一昨年から国書刊行会の全集の刊行が始まっており、昨年には岩波文庫から短編集が出た。そして、今年は河出文庫にも短編集が入った。久生十蘭は、没後十年ほどたった1970年前後から最初の再評価が始まり、…

川北稔『砂糖の世界史』岩波ジュニア新書

著者はウォーラーステイン『近代世界システム』の訳者。本書も「世界システム論」的な歴史の見方がベースになっている。 本書によれば、砂糖がイギリスで大量に消費されるようになったのは、17世紀半ばのことだそうだ。その背景には、上流市民に独占されてい…

『百物語怪談会(文豪怪談傑作選・特別篇)』ちくま文庫

明治の文化人による怪談会の実録集。明治42年(1909年)に刊行された『怪談会』と、文芸誌「新小説」の明治44年(1911年)十二月号に掲載された特集企画「怪談百物語」を併せて収録している。裏表紙の内容紹介によれば、明治の末、「開化思想への反発と泰西…

久生十蘭『眞説・鐵仮面』桃源社

久生十蘭(1902〜57)も「鉄仮面」の話をもとにした小説を書いている。「オール読物」という雑誌の昭和29年1月号から10月号に連載された『眞説・鐵仮面』がそれで、昭和44年に単行本化された。 久生十蘭は、鉄仮面の正体について、ルイ14世の双子説にひとひ…

ボアゴベ『鉄仮面』講談社

Fortuné du Boisgobey, Les Deux Merles de Monsieur Saint-Mars (1878) ルイ14世治下のフランスに、鉄仮面をかぶせられた謎の囚人がいた。松村喜雄『怪盗対名探偵』によれば、この囚人は1669年、ピニョロル(現イタリア)の要塞に収容されたのち、各地の監…

オーギュスト・ル・ブルトン『男の争い』ハヤカワ・ミステリ

Auguste Le Breton, Du Rififi chez les hommes (1953) フランス文学には、ロマン・ノワールと呼ばれるジャンルがある。日本語に訳せば「暗黒小説」であり、犯罪、暴力、アウトローなどを重要な構成要素とする。1945年に大手出版社のガリマールが「セリ・ノ…

昨晩のDigを聴いて

本は読んでいるのだが、なかなかブログに記事を書く暇がなかった。今日も読んだ本の感想ではない。ラジオのことだ。 昨晩、仕事をしながらTBSラジオのDigを聴いていたのだが、取り上げていたテーマは今、大揺れの大相撲。この放送がえらく面白くて、仕事が手…

井筒和幸『ヒーローショー』

製作年:2010年 製作国:日本 監督・脚本: 井筒和幸 キャスト:後藤淳平(石川勇気)、福徳秀介(鈴木ユウキ)、ちすん(あさみ)、米原幸佑(勉・ギガブルー)、桜木涼介(剛志・ボス怪人)、林剛史(拓也・勉の兄)、阿部亮平(鬼丸) 最近、見たいと思え…

種村季弘『食物漫遊記』ちくま文庫

種村季弘による食物をめぐるエッセイ集。でも、あれが美味かった、これが美味かったというようなグルメ本ではない。そこはさすが種村季弘という感じで、ひとひねりもふたひねりもしてある。 たとえば「画餅を食う話」では、アパートに屯ろする学生仲間が、ひ…

後藤忠政『憚りながら』宝島社

昨日の記事に書いた藤木TDCさんもラジオで紹介していた本。前から気になっていた本なのだが、Amazonでは在庫切れになっているようだ。私は紀伊國屋書店のウェブサイトで手に入れた。 『憚りながら』は、元後藤組組長の後藤忠政氏へのインタビューをもとに構…

藤木TDC、ブラボー川上『東京裏路地〈懐〉食紀行』『続東京裏路地〈懐〉食紀行』ミリオン出版

今年の四月からTBSラジオでDigという番組をやっている。TBSの女子アナウンサーと日替わりの曜日パーソナリティが、ひとつのテーマについて「Dig=掘る」という番組なのだが、その水曜日を担当しているのが藤木TDCさんだ。 私はこの藤木TDCさんの一回目の放送…

ミハイル・ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』河出書房新社

前々から気になっていた『巨匠とマルガリータ』を新刊書店で衝動買い。手に取ったら、そのままふらふらとレジに並んでしまった。『巨匠とマルガリータ』は悪魔の話だけど、本自体にも魔力が仕込まれていたのか。 『巨匠とマルガリータ』の物語をざっと要約す…

ジョニー・トー『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』

原題:Vengeance/復仇 製作国:香港・フランス(2009年) 監督:ジョニー・トー キャスト:ジョニー・アリディ(フランシス・コステロ)、アンソニー・ウォン(クワイ)、ラム・カートン(チュウ)、ラム・シュ(フェイロク)、サイモン・ヤム(ジョージ・…

ダニエル・T・マックス『眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎』紀伊國屋書店

Daniel T. Max, The Family that couldn't sleep. 著者は十八世紀のヴェネチアから話を始める。この地に住むある医師が不眠症に陥り、発汗や体の震えなどの症状に悩まされて亡くなる。そして、この医師の甥と思われる人物およびその家族もまた、同じような死…

モーリス・ルブラン『八点鐘』新潮文庫

Maurice Leblanc, Les huit coups de l'horloge (1923). 『八点鐘』は短編集の形式になっているが、同じ主人公ふたりが活躍することから、一編の長編小説ともみなせる面白い構成になっている。八つの冒険を繰り広げるのは、セルジ・レニーヌ公爵ことアルセー…

モーリス・ルブラン『虎の牙』創元推理文庫

Maurice Leblanc, Les Dents du tigre (1921) 富豪コスモ・モーニントンが、二億フランの財産を残して変死した。その変死の謎を捜査していたヴェロ刑事も、歯形のついたチョコレートを残して毒殺される。モーニントンの遺言で、相続人の捜索は友人のドン・ル…

キム・テギュン『クロッシング』

製作国:韓国(2008年) 監督:キム・テギュン キャスト:チャ・インピョ(キム・ヨンス)、シン・ミョンチョル(キム・ジュニ)、ソ・ヨンファ(キム・ヨンハ)、チョン・インギ(サンチョル)、チュ・ダヨン(ミソン) ※以下の文には映画のネタばれとなる…

モードリス・エクスタインズ『春の祭典』TBSブリタニカ

前々から欲しいと思っていたエクスタインズの『春の祭典』を、吉祥寺の某古書店で発見。値段は1500円だった。去年末に出た新版は定価が9000円以上するし、旧版もアマゾンのマーケットプレイスでは結構な値段がついているので、迷わずに購入した。古書店をま…

松村喜雄『怪盗対名探偵―フランス・ミステリーの歴史』双葉文庫

日本に与えた影響の大きさのわりには、あまりよく知られているとは言えないフランスミステリーの長篇評論。基本的に作家ごとの章立てになっていて、ジュール・ヴェルヌやマルセル・シュウォップなどの作家も取り上げられている。各章の分量は著者の思い入れ…

ヤン・イクチュン『息もできない』

製作国:韓国(2008年) 監督・脚本:ヤン・イクチュン キャスト:ヤン・イクチュン(サンフン)、キム・コッピ(ヨニ)、イ・ファン(ヨンジェ)、チョン・マンシク(マンシク) 『息もできない』は、人材がキラ星のごとくひしめく韓国映画界に、また新しい…

マルセル・カルネ『天井桟敷の人々』

原題:Les Enfants du paradis 製作国:フランス(1945年) 監督:マルセル・カルネ 脚本:ジャック・プレヴェール キャスト:アルレッティ(ガランス)、ジャン=ルイ・バロー(バチスト)、ピエール・ブラッスール(フレデリック・ルメートル)、マルセル…

モーリス・ルブラン『棺桶島』新潮文庫

Maurice Leblanc, L'Ile aux trente cercueils (1919) 巨石建造物研究家のデルジュモン氏の娘ベロニックは、ポーランド貴族を自称するボルスキーという男と結婚する。娘の結婚に反対だったデルジュモン氏は、ふたりの間に生まれた男の子を誘拐し逃走。そのま…

種村季弘『偽書作家列伝』学研M文庫

電車の中で少しずつ読んでいた『偽書作家列伝』を読了。ちょっと前に読んだ、長山靖生『人はなぜ歴史を偽造するのか』では、愛国心と歴史が結び付いたときの、きな臭さを感じさせる話が多かった。『偽書作家列伝』はもっと肩の力を抜いて読むことのできる話…

ピエトロ・ジェルミ『鉄道員』

原題:IL FERROVIERE 製作国:イタリア(1956年) 監督・脚本:ピエトロ・ジェルミ キャスト: ピエトロ・ジェルミ(アンドレア) エドアルド・ネボラ(サンドロ) ルイザ・デラ・ノーチェ(サラ) シルヴァ・コシナ(ジュリア) 旧作映画ばかり50本を上映す…

産經新聞の書評がひどい

4月25日の産經新聞に掲載された西尾幹二氏の書評があまりにひどい。河添恵子著『中国人の世界乗っ取り計画』(産經新聞出版)という本について書かれたものだが、書評の名を借りたヘイトスピーチに他ならない。以下、引用してみる。 ■狂躁ぶり描く驚嘆リポー…

モーリス・ルブラン『金三角』創元推理文庫

Maurice Leblanc, Le Triangle d'or (1917) 傷痍軍人のパトリス・ベルヴァル大尉は、何者かによって誘拐されそうになった看護婦のコラリーを救う。コラリーの夫はエサレス・ベイという名の実業家だったが、「金三角」というメモと紫水晶のメダルを持って、自…