『倫敦から来た男』

英題:THE MAN FROM LONDON
製作年:2007年
製作国:ハンガリー/ドイツ/フランス
日本公開:2009年12月12日
監督・脚本:タル・ベーラ
キャスト:
ミロスラヴ・クロボット(マロワン)
ティルダ・スウィントン(マロワンの妻)
ボーク・エリカ(マロワンの娘)
デルジ・ヤーノシュ(ブラウン)
レーナールト・イシュトヴァーン(刑事)


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ストーリー
 ある港町で鉄道員として働くマロワンは、ある夜、二人の男が港で争っているのを目撃する。一人の男は持っていたトランクもろとも海に突き落とされる。もう一人の男が立ち去ると、マロワンはトランクを海中から引き上げる。中には約6万ポンドもの大金が入っていた。
 ホテルのカフェで、ブラウンという男をロンドンから来た刑事が問いつめている。ブラウンは港で男を突き落とした人物である。ブラウンは隙を見て逃げ出す。
 マロワンは、食料品店で床掃除をさせられていた娘に店を辞めさせて、毛皮の襟巻きを買ってやる。マロワンは妻と喧嘩をする。
 刑事がマロワンの仕事場を尋ねてきて、事件の夜、何か目撃しなかったか尋ねる。
 ホテルのカフェに、ブラウンの妻がやって来る。刑事は彼女にブラウンに殺人の嫌疑がかけられていることを話し、彼を見つけるために協力を要請する。
 マロワンは娘から、海沿いの小屋に男がいると聞く。マロワンは、食料を持って小屋に向かうが…。


 シアター・イメージ・フォーラムでの上映が今週までだったことを知り、あわてて観てきた。タル・ベーラと言えば、前作『ヴェルクマイスター・ハーモニー』の時、観終わった後、やたらと疲労困憊した記憶が残っている。しかし、次の作品が公開されたら、懲りずに観に行ってみようと思わせる何かがあった。それから7年、ようやくタル・ベーラの新作が公開された。
 『倫敦から来た男』は、原作がシムノンで、ストーリーもしっかりとあるので、『ヴェルクマイスター・ハーモニー』に比べればずいぶんと取っ付きやすい。それでも、延々と続く長回しが連発されるのは前作同様で、極端にせりふを省いた場面も多く、上演時間も2時間18分とやや長めだから、途中で飽きてしまう観客も多いかも知れない。私も冒頭の長回しのシーンを観ていて集中力が最後まで持つか不安になったが、徐々に映画の世界へと引きずり込まれていき、最後の方は映画が終わるのが惜しいぐらいの気持ちになった*1
 白黒フィルムで撮られた映像は、闇と光、静と動のコントラストが印象的で、スクリーン全体にみなぎる緊張感が心地よい。あわてず、急がず、必要以上に語らない。映画の醍醐味を存分に味あわせてくれる作品だと思う。ブラウンの妻が、刑事から夫の犯罪を知らされるところなどは、これぞ映画という素晴らしい場面。オスカー女優のティルダ・スウィントンを除くと*2チェコハンガリーの知らない役者たちばかりだが、彼らの演技も素晴らしかった。せりふはフランス語と英語で、別の声優たちによって吹き替えられている。チェコハンガリーの役者を起用したのは、せりふから解放し演技に集中させるためだったのだろうか。
 ちなみに、この映画が撮影されたのはコルシカ島のバスチア。私は数年前に旅行で行ったことがあるのだが、映画を観ているときは全然気付かなかった。

*1:この映画について、「30分もあれば語りつくせる内容を2時間20分近い長尺にされても、見ているほうは疲れる」と言っている映画評論家がいる(http://www.cinemaonline.jp/review/ken/10907.html)。「30分もあれば語りつくせる内容」とは、ストーリーのことを言っているのだろうか。映画がひとつのストーリーを語るだけのものなら、映画をわざわざ見る必要はないと思う。

*2:彼女の持っているノーブルな雰囲気が、労働者の妻という役柄にはあわない。彼女だけがやや浮いた存在に見えた。