読書

最近読んだ本と観た映画

ここ最近の猛暑ですっかりバテてしまい、本や映画の感想を書く作業もすっかり滞ってしまった。とりあえず、ここ一週間くらいで読んだ本と観た映画のリストだけでも。 【読書】 ジム・トンプスン『内なる殺人者』河出文庫 フィリップ・K・ディック『高い城の…

ロビン・マックネス『オラドゥール―大虐殺の謎』小学館文庫

1944年6月10日、フランス中南部の小さな村オラドゥールで、ナチス親衛隊(SS)による大規模な虐殺事件が起こった。村人642人が殺され、生き残ったのはわずか数人。男は納屋に、女子供は教会にそれぞれ押し込められ、機銃の一斉射撃を浴び、火を点けられ、手…

マルセル・パニョル『鉄仮面の秘密』評論社

ボアゴベ『鉄仮面』、久生十蘭『眞説・鐵仮面』を読んだら、史実としての鉄仮面はどうだったのかが気になり、本書を読んでみた。著者のマルセル・パニョル(1895〜1974)はフランスの小説家、劇作家、映画作家である。鉄仮面の謎に関しては、ハリー・トンプ…

久生十蘭『久生十蘭ジュラネスク―珠玉傑作集』河出文庫

久生十蘭の再評価の気運が高まっているのだろうか。一昨年から国書刊行会の全集の刊行が始まっており、昨年には岩波文庫から短編集が出た。そして、今年は河出文庫にも短編集が入った。久生十蘭は、没後十年ほどたった1970年前後から最初の再評価が始まり、…

川北稔『砂糖の世界史』岩波ジュニア新書

著者はウォーラーステイン『近代世界システム』の訳者。本書も「世界システム論」的な歴史の見方がベースになっている。 本書によれば、砂糖がイギリスで大量に消費されるようになったのは、17世紀半ばのことだそうだ。その背景には、上流市民に独占されてい…

『百物語怪談会(文豪怪談傑作選・特別篇)』ちくま文庫

明治の文化人による怪談会の実録集。明治42年(1909年)に刊行された『怪談会』と、文芸誌「新小説」の明治44年(1911年)十二月号に掲載された特集企画「怪談百物語」を併せて収録している。裏表紙の内容紹介によれば、明治の末、「開化思想への反発と泰西…

久生十蘭『眞説・鐵仮面』桃源社

久生十蘭(1902〜57)も「鉄仮面」の話をもとにした小説を書いている。「オール読物」という雑誌の昭和29年1月号から10月号に連載された『眞説・鐵仮面』がそれで、昭和44年に単行本化された。 久生十蘭は、鉄仮面の正体について、ルイ14世の双子説にひとひ…

ボアゴベ『鉄仮面』講談社

Fortuné du Boisgobey, Les Deux Merles de Monsieur Saint-Mars (1878) ルイ14世治下のフランスに、鉄仮面をかぶせられた謎の囚人がいた。松村喜雄『怪盗対名探偵』によれば、この囚人は1669年、ピニョロル(現イタリア)の要塞に収容されたのち、各地の監…

オーギュスト・ル・ブルトン『男の争い』ハヤカワ・ミステリ

Auguste Le Breton, Du Rififi chez les hommes (1953) フランス文学には、ロマン・ノワールと呼ばれるジャンルがある。日本語に訳せば「暗黒小説」であり、犯罪、暴力、アウトローなどを重要な構成要素とする。1945年に大手出版社のガリマールが「セリ・ノ…

種村季弘『食物漫遊記』ちくま文庫

種村季弘による食物をめぐるエッセイ集。でも、あれが美味かった、これが美味かったというようなグルメ本ではない。そこはさすが種村季弘という感じで、ひとひねりもふたひねりもしてある。 たとえば「画餅を食う話」では、アパートに屯ろする学生仲間が、ひ…

後藤忠政『憚りながら』宝島社

昨日の記事に書いた藤木TDCさんもラジオで紹介していた本。前から気になっていた本なのだが、Amazonでは在庫切れになっているようだ。私は紀伊國屋書店のウェブサイトで手に入れた。 『憚りながら』は、元後藤組組長の後藤忠政氏へのインタビューをもとに構…

藤木TDC、ブラボー川上『東京裏路地〈懐〉食紀行』『続東京裏路地〈懐〉食紀行』ミリオン出版

今年の四月からTBSラジオでDigという番組をやっている。TBSの女子アナウンサーと日替わりの曜日パーソナリティが、ひとつのテーマについて「Dig=掘る」という番組なのだが、その水曜日を担当しているのが藤木TDCさんだ。 私はこの藤木TDCさんの一回目の放送…

ミハイル・ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』河出書房新社

前々から気になっていた『巨匠とマルガリータ』を新刊書店で衝動買い。手に取ったら、そのままふらふらとレジに並んでしまった。『巨匠とマルガリータ』は悪魔の話だけど、本自体にも魔力が仕込まれていたのか。 『巨匠とマルガリータ』の物語をざっと要約す…

ダニエル・T・マックス『眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎』紀伊國屋書店

Daniel T. Max, The Family that couldn't sleep. 著者は十八世紀のヴェネチアから話を始める。この地に住むある医師が不眠症に陥り、発汗や体の震えなどの症状に悩まされて亡くなる。そして、この医師の甥と思われる人物およびその家族もまた、同じような死…

モーリス・ルブラン『八点鐘』新潮文庫

Maurice Leblanc, Les huit coups de l'horloge (1923). 『八点鐘』は短編集の形式になっているが、同じ主人公ふたりが活躍することから、一編の長編小説ともみなせる面白い構成になっている。八つの冒険を繰り広げるのは、セルジ・レニーヌ公爵ことアルセー…

モーリス・ルブラン『虎の牙』創元推理文庫

Maurice Leblanc, Les Dents du tigre (1921) 富豪コスモ・モーニントンが、二億フランの財産を残して変死した。その変死の謎を捜査していたヴェロ刑事も、歯形のついたチョコレートを残して毒殺される。モーニントンの遺言で、相続人の捜索は友人のドン・ル…

モードリス・エクスタインズ『春の祭典』TBSブリタニカ

前々から欲しいと思っていたエクスタインズの『春の祭典』を、吉祥寺の某古書店で発見。値段は1500円だった。去年末に出た新版は定価が9000円以上するし、旧版もアマゾンのマーケットプレイスでは結構な値段がついているので、迷わずに購入した。古書店をま…

松村喜雄『怪盗対名探偵―フランス・ミステリーの歴史』双葉文庫

日本に与えた影響の大きさのわりには、あまりよく知られているとは言えないフランスミステリーの長篇評論。基本的に作家ごとの章立てになっていて、ジュール・ヴェルヌやマルセル・シュウォップなどの作家も取り上げられている。各章の分量は著者の思い入れ…

モーリス・ルブラン『棺桶島』新潮文庫

Maurice Leblanc, L'Ile aux trente cercueils (1919) 巨石建造物研究家のデルジュモン氏の娘ベロニックは、ポーランド貴族を自称するボルスキーという男と結婚する。娘の結婚に反対だったデルジュモン氏は、ふたりの間に生まれた男の子を誘拐し逃走。そのま…

種村季弘『偽書作家列伝』学研M文庫

電車の中で少しずつ読んでいた『偽書作家列伝』を読了。ちょっと前に読んだ、長山靖生『人はなぜ歴史を偽造するのか』では、愛国心と歴史が結び付いたときの、きな臭さを感じさせる話が多かった。『偽書作家列伝』はもっと肩の力を抜いて読むことのできる話…

モーリス・ルブラン『金三角』創元推理文庫

Maurice Leblanc, Le Triangle d'or (1917) 傷痍軍人のパトリス・ベルヴァル大尉は、何者かによって誘拐されそうになった看護婦のコラリーを救う。コラリーの夫はエサレス・ベイという名の実業家だったが、「金三角」というメモと紫水晶のメダルを持って、自…

モーリス・ルブラン『続813』新潮文庫

Maurice Leblanc, Les Trois Crimes d'Arsène Lupin (1910). 前編に続いて一気に読んでしまった。この作品には、読者を驚かせる仕掛けがこれでもかというばかりに詰まっている。とんでもない人物が刑務所のルパンを訪ねてくるところとか、殺人鬼L・Mの正体が…

モーリス・ルブラン『813』新潮文庫

Maurice Leblanc, La Double Vie d'Arsène Lupin (1910). ハヤカワ文庫の新訳版を読み出してからは、寝る前にルパンを読むのが習慣になっている。疲れていると本を読んでいても内容が頭に入ってこないときがあるが、ルパンのシリーズはとにかく先が気になる…

和田英次郎『怪盗ルパンの時代―ベル・エポックを謳歌した伊達男』早川書房

ルパンが活躍するのは19世紀末から20世紀初頭にかけてのベル・エポックと呼ばれる時代。パリが世界の文化的な中心地として飛躍的な発展を遂げた時代だ。ルパンは小説の中で、パリに生きる典型的な都会人として出てくる。ルパン・シリーズを読むことは、ベル…

モーリス・ルブラン『水晶の栓』ハヤカワ文庫

Maurice Leblanc, Le Bouchon de cristal (1912). 代議士ドーブレックの別荘へ侵入したルパン一味だったが、この盗みを計画した部下のジルベールとヴォシュレーが警察に捕まってしまう。ふたりの本当の狙いは、ドーブレックが持っている水晶の栓だった。逃走…

モーリス・ルブラン『奇岩城』ハヤカワ文庫

Maurice Leblanc, L'Aiguille creuse (1909). ルパン・シリーズ最初の長篇で、高校三年生のイジドール・ボートルレとアルセーヌ・ルパンの対決が語られる。ボートルレは、ジェーヴル伯爵の屋敷に盗賊団が侵入した事件をアルセーヌ・ルパンのしわざと見抜き、…

モーリス・ルブラン『カリオストロ伯爵夫人』ハヤカワ文庫

Maurice Leblanc, La Comtesse de Cagliostro (1924). アルセーヌ・ルパンが、ラウール・ダンドレジーと名乗っていた二十歳の頃の冒険譚。ルパン最初の冒険であり、怪盗紳士アルセーヌ・ルパンの誕生秘話でもある。この作品が書かれたのは1924年なので、ルパ…

モーリス・ルブラン『怪盗紳士ルパン』ハヤカワ文庫

Maurice Leblanc, Arsène Lupin Gentleman Cambrioleur (1907). ルパンというと、小学生の頃、ポプラ社から出ていた児童向けのシリーズを学校の図書館でよく読んでいた。ルパンのシリーズは、同じポプラ社の少年探偵団のシリーズとともに、私のお気に入りだ…

アナトール・フランス『神々は渇く』岩波文庫

Anatole France, Les Dieux ont soif (1912). フランス革命期の恐怖政治時代を舞台にした歴史小説。主人公のエヴァリスト・ガムランは美貌の若い画家で、年老いた母と一緒に暮らしている。熱烈な共和主義者で愛国者の彼は、ロシュモール夫人の運動によって革…

チェーホフ『かもめ』岩波文庫

ねえ、コースチャ、今では私、分かるの、理解できたの―舞台に立とうが物を書こうが同じこと、私たちの仕事で大事なのは、名声だとか栄光だとか、私が夢見ていたものではなく、耐えることができるかどうかなの。 今年のはじめに出た『かもめ』の新訳版を読ん…