アンリ=ジョルジュ・クルーゾー『密告』

原題:Le Corbeau
制作国:フランス
公開年:1943年
監督/脚本:アンリ=ジョルジュ・クルーゾー
撮影:ニコラ・エイエ
キャスト:ピエール・フレネー(ジェルマン)、ピエール・ラルケ(ヴォルゼ)、ミシェリーヌ・フランセ(ローラ)

 舞台はサン・ロバンというフランスの小さな田舎町。この町の医師ジェルマンは、「カラス」と署名された怪文書による中傷の的となっていた。彼が医長ヴォルゼの妻ローラと不貞を働いているというのである。やがて怪文書は他の人々をも攻撃しはじめ、不治の病を抱える男性がそのせいで自殺してしまう。パニックに陥る町の人々。一度は、犯人と思しき人物が逮捕されるものの、怪文書の騒ぎは止まない。真犯人はいったい誰なのか…。
 この映画はずいぶん前に見たことがあり、強く印象に残っていた。DVDを手に入れたので見直してみたのだが、傑作だという思いをさらに強くした。何と言っても、映画全体に漂う緊張感がすばらしい。小さな町に漂う重苦しい雰囲気が、見る側にも伝わってくる。大きな影が壁に映る場面など、フィルム・ノワールを思い起こさせるような要素もある。
 また、真犯人について解釈が色々できそうな終わり方もよい。一応、真犯人らしき人物が最後に示される形にはなっているのだが、犯行の動機が明らかにされない以上、解釈は開かれている。あるいは、この映画は、真犯人探しを主眼とした謎解き映画として見てもあまり意味はないのかもしれない。むしろ、疑心暗鬼に駆られる人々の心理を描いた一種のパニック映画としてとらえたほうが、この映画の本質に迫ることができそうな気がする。