マルセル・パニョル『鉄仮面の秘密』評論社

 ボアゴベ『鉄仮面』、久生十蘭『眞説・鐵仮面』を読んだら、史実としての鉄仮面はどうだったのかが気になり、本書を読んでみた。著者のマルセル・パニョル(1895〜1974)はフランスの小説家、劇作家、映画作家である。鉄仮面の謎に関しては、ハリー・トンプソン『鉄仮面―歴史に封印された男』という本もあるようだが、こちらはまだ入手していない。
 鉄仮面については多くの研究書が書かれているが、その正体として有力視されているのが、イタリアの外交官マティオリ伯と、ルイ14世の幼馴染みの兄弟であるドージェという人物のふたりだという。パニョルはこのふたつの説を否定し、鉄仮面はルイ14世の双子の兄弟であったとする。パニョルによれば、ドージェは、鉄仮面となる男が逮捕されたときには、すでに拘禁中の身であり、マティオリも逮捕された年代や死亡した年代が、鉄仮面のそれと合わないなど、疑わしい点が数々あるという。その上で、ルー・ド・マルスィイが計画したフランス打倒の陰謀に加担して逮捕された、ジェームズ・ド・ラ・クローシュというジャージー島の貴族が、実はルイ14世の双子の兄弟であり、この男こそが鉄仮面の正体だとしている。
 ちなみに、私は読んだことがないのだが、藤本ひとみの『ブルボンの封印』は、鉄仮面=ルイ14世の双子説をベースにしている(らしい)。その後、『ブルボンの封印』は宝塚によって舞台化され、漫画にもなっている。宝塚が舞台にしたのは1993年だが、黒岩涙香の翻案『鉄仮面』が出たのは1893年だから、ちょうど100年前のこと。なんとも不思議なめぐりあわせという気がする。
 パニョルの本に戻ると、ルイ14世の双子説というのが一番納得できるような気はする。しかしそれを裏付けるための資料、とりわけ鉄仮面に深く関わっていた陸軍大臣ルーヴォアの書簡については残っていないものが多いので、どうしても推測に頼る部分が出てきてしまう。結局、鉄仮面の正体は永遠に解けない謎なのだろうか。

『鉄仮面』の秘密 (1976年)

『鉄仮面』の秘密 (1976年)