ゴンクウル兄弟『ジェルミニィ・ラセルトゥウ』岩波文庫


 表題は『ジェルミニィ・ラセルトゥウ』だが、本の中では「ヂェルミニィ」となっている。この表記の仕方に時代を感じる。岩波文庫版は昭和25年の刊行。今は『ジェルミニー・ラセルトゥ』の表記が一般的だ。「ゴンクウル兄弟」も、今は「ゴンクール兄弟」と書く。
 『ジェルミニー・ラセルトゥ』は、ゾラに『テレーズ・ラカン』を書かせるきっかけとなった作品として有名。今春の岩波文庫リクエスト復刊で入手した。ところで、リクエスト復刊に関して、いつも思うのだが、なぜヴィクトル・ユゴーの『ノートルダム・ド・パリ』は復刊されないのだろうか。ディズニーアニメの原作としても有名だし、小説としての面白さも一級品だと思うのだが。あと、同じユゴーの『笑う男』の訳がどこからも出ないのも不思議だ。大正時代に訳が出たらしいが、入手困難だし、古すぎる。私は、その昔、フランス語の原書を必死になって読んだのだが、生涯ベスト10に入るくらいの面白い作品だった。ユゴーは有名なわりには、過小評価されている作家のひとりだと思う。
 さて、『ジェルミニー・ラセルトゥ』だが、妹分の『テレーズ・ラカン』と同じく、破滅していく女性を描いた、読んでいてとても気分の暗くなる小説だ。


 主人公のジェルミニー・ラセルトゥは、ある老嬢に仕える善良な女中だったが、近所に住む若い男に惚れ込んでしまったところから、彼女の人生が狂い出す。主人に隠れて、彼女は男に金品を貢ぎ、子供まで儲けるが、その子供は幼くして死んでしまう。貯金を使い果たし、借金をしてまで男の関心をつなぎ止めようとした彼女だが、結局は男に棄てられる。彼女は、別の男と関係を持つようになるが、心身ともに消耗していき、女中としての仕事もままならなくなる…。


 自分の子供の死を知ったジェルミニーが、ヒステリーの発作に襲われる場面や、彼女の奇矯な振舞いを描いた場面などは、下手なホラー小説よりもずっと怖い。『テレーズ・ラカン』の後に続けて、この作品を読んだので、すっかり気が滅入ってしまった。文学史的にも重要な作品だし、病理学的な描写など興味深い点も多かったのだが、次はちょっと気分転換になる作品を読みたい。
 訳文は昭和25年のものだから、かなり古くさい。個人的に旧字体はあまり気にならないのだが、直訳調の訳文が読みづらく、意味の取りにくい箇所もままある。

ジェルミニィ・ラセルトゥウ (岩波文庫)

ジェルミニィ・ラセルトゥウ (岩波文庫)