松村喜雄『怪盗対名探偵―フランス・ミステリーの歴史』双葉文庫

 日本に与えた影響の大きさのわりには、あまりよく知られているとは言えないフランスミステリーの長篇評論。基本的に作家ごとの章立てになっていて、ジュール・ヴェルヌやマルセル・シュウォップなどの作家も取り上げられている。各章の分量は著者の思い入れに比例している感じで、シムノンなどにはかなりの頁が割かれている。作品リストも付いているので、フランスミステリーの入門書として役立ちそうだ。
 筆者の松村喜雄氏は1918年生まれ。もともと外務省に勤務していた人で、仕事のかたわら文筆活動をしていたという。探偵小説を読みたい一心で語学を習ったそうだが、当時は原書を入手するのはもちろん、本の情報を集めるのも大変なことだったろう。そのような中、フランスミステリーを体系的に収集、読破し、紹介や翻訳を行ってきた松村氏の功績は大きい。