ミハイル・ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』河出書房新社

 前々から気になっていた『巨匠とマルガリータ』を新刊書店で衝動買い。手に取ったら、そのままふらふらとレジに並んでしまった。『巨匠とマルガリータ』は悪魔の話だけど、本自体にも魔力が仕込まれていたのか。
 『巨匠とマルガリータ』の物語をざっと要約すると、巨匠とマルガリータの恋愛を軸にして、悪魔とその手下がモスクワで大暴れし、巨匠の小説を酷評した文壇関係者が次々とひどい目に遭うというもの。
 文芸総合誌の編集長が予告通りに首を切断されて死ぬという、冒頭の謎めいた展開で一気に物語に引き込まれる。その後も、悪魔とその手下が引き起こす様々な騒ぎの描写が、めっぽう面白く、最初の300頁くらいは一気に読んだ。でも、途中からだんだん飽きてくる。その原因のひとつは、主人公の巨匠とマルガリータが端役たちに完全に食われていて、物語の背景にあるふたりの恋愛話が盛上がらないこと。翻訳だと600頁近い長篇作品なので、悪魔が暴れているだけではちょっとつらい。もっとも、この冗長さがロシア的なのかもしれないけど。
 旧ソ連の文学者の宿命と言うべきか、ブルガーコフも抑圧的な体制下で、不幸な作家生活を余儀なくされた。解説によると、ブルガーコフは発表するあてもなく、『巨匠とマルガリータ』を書き続けたという。作品が活字になったのは、作者の死後26年を経た1973年のこと。それを考えると、なかなかに感慨深い作品ではある。

巨匠とマルガリータ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-5)

巨匠とマルガリータ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-5)