マルセル・カルネ『天井桟敷の人々』


原題:Les Enfants du paradis
製作国:フランス(1945年)
監督:マルセル・カルネ
脚本:ジャック・プレヴェール
キャスト:アルレッティ(ガランス)、ジャン=ルイ・バロー(バチスト)、ピエール・ブラッスールフレデリックルメートル)、マルセル・エラン(ピエール・ラスネール)、ルイ・サルー(モントレー伯爵)、マリア・カザレス(ナタリー)


 日曜日もTOHOシネマズの「午前十時の映画祭」へ行った。今回は個人的に思い入れのある『天井桟敷の人々』だったので、見に行かずにはいられなかった。
 『天井桟敷の人々』は、いかにも往年の名作といった感じの堂々たる作品だ。例えば、映画の主要舞台であるパリの「犯罪大通り」は、巨大なセットで再現されているが、大勢の人々が行き交うさまは圧巻だ。セットの製作、大勢のエクストラの動かし方など、作る側にかなりの腕力が要求されたことだろう。しかもこの作品が作られたのは、フランスがナチス・ドイツに敗れ、パリをはじめとする地域が占領下にあった最も苦しい時期。見つかれば収容所送りになるユダヤ人スタッフは、身の危険と隣り合わせの状態で映画製作にあたっていたという。逆境のなか、三年以上の年月と巨額の制作費を投じて『天井桟敷の人々』は作られた。フランス映画界の意地をかけた作品といえる。
 この映画の見所はいろいろとあるのだが、ここでは舞台となった「犯罪大通り」について少しだけ。「犯罪大通り」とは、かつてパリにあった大衆的な歓楽街の通称だ。日本ならひと昔前の浅草や上野といったところだろうか。大道芸人がいて、のぞき小屋があり、大衆劇場がある。怪しげな人物が巣食い、無秩序と猥雑さが支配するのが「犯罪大通り」だ。フランス映画史上に燦然と輝く大作が、この場所を舞台にしているのは、フランス人にとってそれだけ重要な意味を持っているからだろう。「犯罪大通り」が象徴する庶民的な活気もまた、パリに欠かせない要素だ。「犯罪大通り」は、第二帝政下で進められたパリ大改造で、地図上からは消えてしまったが、フランス人の心象風景としては残っていたのである。おしゃれで、こぎれいなパリもいいが、「犯罪大通り」的なパリもまたいい。